薔薇物語

時は去りゆく 夜も昼も
休むことなく とどまることなく
あまりにひそやかな足取りなので
いつも止まっているかのよう
      ギヨーム・ド・ロリス

その生涯がほとんど不明のギヨーム・ド・ロリスは『薔薇物語』前半の作者です。

彼はオウィディウスの『恋の技法』やクレチアン・ド・トロアの騎士道物語(ロマンス)などの影響を受け、従来から扱われた題材を用いて4058行の物語を著わしました。詩人が夢の中で薔薇に恋をする幻想的なストーリーです。儀礼、歓待、理性、純潔、危険、恐怖、嫉妬などが擬人化されて登場します。

女性を茨に囲まれた薔薇に擬した比喩的な物語の体裁で恋愛心理を図式化し、宮廷風騎士道的な恋愛の掟を説き、古典的教養を交え教化する目的が作品の特徴となっています。薔薇物語は夢の幻視の形をとる寓話的な愛の詩です。

『薔薇物語 The Roman de la Rose』は、夢幻の形をとった寓意的な愛の詩ですが、25歳の語り手は、約5年前に見た夢を語っています。夢の中で、彼は壁に囲まれた庭園に行き、「ナルキッソスの泉」の薔薇の花を見ていました。彼が自分の特別な花を選ぼうとしたとき、愛の神が彼に5本もの矢を放ち、彼は永遠にある一輪の花に魅了されてしまったのです。その薔薇を手に入れようとしましたが、なかなかうまくいきませんでしたが、とうとう薔薇に接吻することができました。けれども薔薇の守護者に気づかれてしまい、さらに強固な砦に囲まれてしまうのです。ギヨームの詩が途切れたところで、主人公は愛の実現を阻む新たな障害に直面し、自分の運命を嘆くことになります。

40年程後、ジャン・ド・マンがそれを未完とみなして書き継ぎ、1万7722行の膨大な続編を加え、そこで人間の理性と自然を尊重しました。

ジャンは、ギヨームの女性賛美の理想的な愛の探求とは全く異なる現実主義的な世界観を展開しました。愛の目的を種の保存と考え、豊かな百科全書的な傾向を一層顕著にしました。

そうしたなかで、ジャンの女性蔑視に怒りを覚えたクリスティーヌ・ド・ピザンは女性の地位をめぐり彼への攻撃をはじめました。彼女はフランスのパリ宮廷で活動したヴェネツィア出身の女性詩人で文学者です。反フェミニスト的な論調を取る『薔薇物語』に対抗し、『薔薇のことば』で女性擁護を訴えました。そしてこの「薔薇物語論争」は、多くの人文主義者を巻き込むディベートに発展しました。

『薔薇物語』は13世紀フランスの寓意文学の最高傑作で、中世文学中最も愛好され、後代に多大な影響を与えました。

薔薇物語
右:ジョンズホプキンス大学シェエリダン図書館 中世写本のデジタルライブラリ 中:オーストリア国立図書館(Cod.2568)に保管されているローマ・デ・ラ・ローズの写本 左:ローマ・デ・ラ・ローズ・ド・ヴィエン。1437年、フランス国立図書館、パリ。
クリスティーヌ・ド・ピサン
クリスティーヌ・ド・ピサンが薔薇物語に関する討論の書簡をフランスの女王イザボー・ド・ババリアに捧げている。

バラのアレンジメント
薔薇 (エースピンク・グランオマージュ・レディチャペル)・梅もどき・ユーカリ・ヒバ

歌:大須賀かおり  フラワーアレンジメント・動画制作:真行寺君枝

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